1.アイスクリーム
娘が4歳の時、AKKのサマーセミナーに参加した。
2日目の自由行動の最後に寄ったコンビニで、アイスが食べたいと言って床に座り込んでしまった。私にそんな事をしたら、絶対に買ってもらえないことは解っている娘があえて選んだ行動。じっと座り込んでいる娘の瞳の中を除きこむ…
「アイスじゃないよなあ~本当は。私になんて言ってもらいたいんだろう?」
頭の中で一瞬の間に昨日から今日にかけての回想が始まる初めての高速バスでの旅行。初対面の人と集団での行動。私の精神状態はetc。ピポン!私は娘の耳元に口を近づけて囁いた。
「うん!」たちまち機嫌を直して立ち上がると、他の子供たちの後を追って走って行ってしまった。その様子を見ていた仲間のおかあさんが、なんて言ったのと聞いてきた。
「あとでお母さんと二人だけでアイスを食べようって言ったのよ」昨日から大人に合わせてずっと良い子で我慢してきたこと、私が周りの人に気を使っていて子供のことがおろそかになっていると思うこと、だからきっとアイスを買ってあげてもそれだけじゃ、あの子の気持ちは満たされないと思ったことなどを話した。
「どうしてあの場で、そんな答えを思いつくの?」
「う~ん、私は末っ子でいつも自分一人だけが、会話にいれてもらえず寂しかったことをあのとき思い出したんだよね。でね自分だったらなんて言って欲しかったかなって、それがたまたまヒットしたって所かな。最も私はいつも怒られて終わりだったけどね」。
夕食の後約束どおり、新幹線の駅が見下ろせる最上階のホールで、二人きりでアイスクリームを食べた。
「おかあさんは、あなたが我慢しているのちゃんと分かっているからね」
私がそう言うと娘は私の顔を見つめて、ポロポロと涙を流した。
「お母さんが分かってないと思っていたの?」
コックリとうなずく。
考えれば初めての旅行で、あれはダメ、それはダメ、他の子供は良いけどあなたはまだダメよと言わなきゃならないことが多かった。我慢ができないからじゃなかったんだけれど、子供にしてみればお母さんはちっとも分かってくれないって気分になるのももっともだ。
「じゃあつらかったでしょう?」と水を向けると堰を切ったように、つたない言葉で自分の気持ちをしゃべり出した。緊張していた身体から力が抜けて、切羽詰った顔つきが緩んでいくのが分かる。
「あなたが我慢してくれるからすごく助かっているんだよ、ありがとう。後2日頑張れるかな?」
「う~ん、また我慢できなくなったらどうしよう?」
「その時は、そう言えばいいよ。また二人でどうすれば良いか相談しよう」
「ああそうか」
「ほら、アイスがとけちゃうから食べよう」
二泊三日の中のほんの10分くらいの二人だけの時間だったけれど、その前には我慢させられていると思っていたような子供が、その後では自分で我慢している、お母さんを自分が助けているんだって思っているように感じられそれなりに楽しそうに過ごしているように見えた。
今年の夏コンビニで
「お母さんと旅行の時に食べたアイスがあるよ」と娘が指差した。
「え~まだ覚えてるんだ、もう2年も前の事なのに」
「忘れないよ、あの時ねお母さんはやさしいなって思ったんだもん」
「ああアイスを買ってあげたから?」
「そうじゃなくて!怒られなかったから!」
「……」
あの時怒らないほうが良いよと私に教えてくれた、インナーチャイルドにもありがとうを言ってあげなくちゃ。